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篠ノ井地区で、人のつながりを大切に「やれることをやる」ボランティア
2021.01.20
篠ノ井地区で、人のつながりを大切に「やれることをやる」ボランティア
信州なでしこ隊 
代表 柳原 静子(やなぎはら しずこ)さん
令和元年東日本台風発災後、JR長野駅前に立ち、全国から駆け付けてくれたボランティアをバスへと案内したのをはじめ、被災者に手編みの防寒用品を提供した「篠ノ井あったかプロジェクト」や、避難所での炊き出しなどに取り組んできたという柳原静子さんを訪ねました。

柳原さんが仲間と主催する、地域の仲間が集まる「脳活カフェなでしこ塾」(毎月第2・4土曜日)の当日。互いの顔を見合わせ、がんばらない体操で筋肉を伸ばし、懐かしい歌で思い出を語り合う。「みんなに会えるのが楽しみ。元気をもらって帰る」という、にこやかな時間をともに過ごした後、お話を聞きました。
認知症の夫と大雨に恐怖。被災後は手術当日もボランティアへ
「心臓の調子が悪く医者からしばらく安静にしていろと言われていた頃、あの恐ろしい台風がやってきた。降り続ける大雨に恐怖を感じ、認知症の夫を連れて、どこかへ逃げられるかを考えた」と柳原静子さんは話し始めます。すぐにものを忘れてしまい、なにも判断できない状態の夫を、避難所で受け入れてもらえるのか。誰が面倒を見てくれるのか。行っても負担になるばかりではないのか。このまま一緒に死ぬのかなと、切実に考えました。

被災後、時間がある時はJR長野駅前へ行き、全国から駆けつけてくれたボランティアたちをバス停まで案内。「行ける時は毎日でも行き、心臓の手術を受ける日も出かけて行きたい」と屈託なく話します。

写真は篠ノ井地区住民自治協議会の提供(2019年10月13日早朝、みこと川近くの水に浸かった住宅地)
認知症の夫と大雨に恐怖。被災後は手術当日もボランティアへ
また、「信州なでしこ隊」がボランティアとして初めて被災地支援に出かけた場所は、脳活カフェがはじまった6年ほど前から付き合いがあった長野市長沼地区でした。それまでも互いに交流を深め、ひんぱんに行き来する間柄で、市社会福祉協議会から声をかけてもらい10月下旬に数回炊き出しに出かけました。篠ノ井地区でも床上浸水があり、参加者の中には自分の家も被災して大変だった人もいました。

地元篠ノ井地区では、住民自治協議会と連携して「篠ノ井あったかプロジェクト」に取り組み、編み物サークルがつくった手編みの防寒用品を無償で被災者へ提供しました。厳しくなる寒さに備えてほしいと、温かなクリスマスのプレゼントになりました。

写真は「篠ノ井地区住民自治協議会の提供(2019年12月、「篠ノ井あったかプロジェクト」)
被災の記憶を集めて朗読劇に、ボランティアも再開
柳原さんは手術後の11月上旬、退院してからは動き回ることができませんでした。そこで「とにかく電話をかけまくった」といいます。さまざまな状況を聞いて、人の声をまとめてみよう。災害に向き合った人びとの声を残しておきたいと考え、地区住民の証言をまとめ、朗読劇「忘れない あの日 あの時」の台本を仕上げました。

被災状況を後世へ伝えようと、地区内の会合や小・中学校で、住民自治協議会が撮影した写真をスクリーンに投影しながら発表していく計画を立てていました。残念なことに新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から次々とイベントが中止になり、朗読劇を発表する機会もいくつか失いました。でも「おかげで温め直す時間ができた」と柳原さんは前向きです。15分版の台本や30分版、その日の出演者にあわせた書きかえなど、何度も台本を練り直した上に、子ども向けに紙芝居もつくりました。

朗読劇を地区の関係者に披露した際に、柳原さんは「被災者は自分から積極的に災害時の話ができない。私たちが代弁して地域に広めていきたい」と意気込みを語りました。

写真は篠ノ井地区住民自治協議会の提供(2020年11月11日、長野市ふれあい福祉センターで開いた災害時高齢者共助活動研修会での朗読劇)
被災の記憶を集めて朗読劇に、ボランティアも再開
退院後、動けるようになってからは、南長野運動公園のボランティアセンターで朝から晩までボランティアのための炊き出しや、長野運動公園の避難所での夕食づくりなどを行いました。「信州なでしこ隊と地域の知り合いなどに声をかけ、都合のつく人に来てもらった」という柳原さん。「ボランティアだから『出られなくてすみません』や『ごめんね』とは言わないで、無理をせず来られる時に来ればいい。『私にもできた』と喜んだ人は『また声をかけて』と言ってくれる。自分たちが楽しくやっていると、人は集まってくる。誰にでも何かしら手伝えることはある」と、大らかに話す姿に「いっしょにやってみようかな」と思える人が多いはずです。

写真は篠ノ井地区住民自治協議会の提供(長野市勤労者女性会館しなのきで朗読劇)
なでしこ隊はコロナ禍で一時休止に。発行した冊子、仲間へ届ける思い
2020年コロナ禍で、信州なでしこ隊は4~6月、活動休止を余儀なくされました。さまざまな予定やイベントが中止になり、「下を向いているような時間だった」と悔しそうに話します。

仲間に会えない間に柳原さんは、仲間へ届ける冊子をつくり、それが第6集までになりました。その時々の思いや健康に関する話題、体操や歌、簡単な料理のレシピなどを載せ「お変わりありませんか?」と声をかける、というような温かい冊子です。

「高齢者に必要なのは、体と心の健康づくり。何かの役に立つかもと思った記事を抜き出して、冊子に紹介した。みんなで負けずにがんばりましょうと呼びかけて、ゆううつな気持ちを吹き飛ばしてきた。また、元気で会えますように」が、冊子に込めた柳原さんの思いです。

筆者撮影(2020年12月26日、脳活カフェなでしこ)
なでしこ隊はコロナ禍で一時休止に。発行した冊子、仲間へ届ける思い
「女性の仲間は、長続きしないとよく言われる」と苦笑しながらも、「私たち信州なでしこ隊には、60〜70代を中心にいろんな人がいる。でも上下の関係も年の差も関係なく、なんでも言いあえる関係になっている。みんなが支え合い、なにげないことをしてくれる親兄弟以上のかけがえのない仲間。会長としてやっていかれるか迷った時も『あなたがいてくれるだけでいい』と言ってくれる仲間に恵まれたことが、しあわせ。自分にできることは、みんなに『ありがとう』と言うこと」だといいます。

そんな柳原さんは毎年、つながりのある人、一人一人に手紙を出します。「手紙を楽しみにしてくれている人がいる。『ありがとう』と感謝を伝えれば、またいっしょにやってくれる」と笑みをこぼします。

ナガクル撮影(2020年12月26日、脳活カフェなでしこ)
活動への原点は、母ゆずりの「人のため」「つながりを大事に」という姿勢
戦争で母に抱かれて疎開し、子どもの頃は生活が大変だったという柳原さん。

「4人兄弟の長女として、ずっとがまんしていた。つらいこともあった。くやしい思いもした。けれど、働き者だった母のおかげで、地域の人に支えられ、可愛がってもらった。母はどんなに困っても、お世話になった人に年中なにかを贈っていた。常に感謝を伝えていた。私になにかあった時に、助けてくれたのも母だった。自分のことより人のことを考える母の姿を見て、人のためにやることが当たり前になっていた」と思い出を語ります。

「思う存分に勉強をすることはできなかったが、知らない字があれば、誰にでも聞いて覚えた。本や新聞で学んだ。知らないことでみじめになりたくはなかった。苦しい生活に負けちゃいけないと思った。あちこち声をかけたおかげで、次々と人のつながりができ、いろいろなところから反対に声をかけてもらうようになった」といいます。

ナガクル撮影(イメージ画像:新聞紙とありがとうの手紙)
活動への原点は、母ゆずりの「人のため」「つながりを大事に」という姿勢
結婚後、家庭に入って主婦をしていた頃、長野でオリンピックが開かれることに。それまでつながりのあった人たちから声をかけてもらい、いろいろな出番に恵まれました。集まったボランティアは3万人に及び、ボランティアのためのボランティアを、といった柳原さんの提案も活かしてもらうことができました。

次第につながりは、さまざまな団体や行政へ広がっていきました。人のつながりが、どんどん大きくなり、4人の子どもを育てることで、その学校やPTAのつながりで、さらに輪も大きくなっていきました。公民館長や民生児童委員、福祉関係のボランティアなど「人のため」に役立つ出番が次々とやってきました。

ナガクル撮影(イメージ画像:1998年長野冬季五輪)
いざという時に活きるのが、人とのつながり
仲間がいれば、さらにできることがある。

人に『やろう』と声をかければ、最初は『えっ?』と反応される。

でもやっていけば『よかった、楽しかった』といってくれる。

次になにができるかと期待されることもある。

人のつながりに支えてもらいながら人を立て、人のためにやる。

家族の理解もあって地域のこともやることができた。

やってあげるのではない。

人のことをやることが、自分のためになり、

みんながつながってお互いのためになっている。
いざという時に活きるのが、人とのつながり
今までも、いろいろな人のお世話になってきた。

生きているうちは、自分でやれることをやるだけ。

信州なでしこ隊の仲間に恵まれ、

人のためになるボランティアの機会に遭遇した。

いざという時に活きるのが、人のつながりなのだと思う。

・・・柳原さんは語り続けます。

ナガクル撮影(2020年12月26日、脳活カフェなでしこ)
柳原さんと「信州なでしこ隊」のみなさんに出会ってほしい
戦後の貧困を乗り越え、一人の女性として、丁寧に生きてきた柳原さん。大らかで温かな人柄に引き寄せられるような魅力を感じました。

普段から培ってきた人のつながりが、いざという時に役立つことを、実践を通して、私たち市民に教えてくれています。そして、災害に向き合った人びとの声を伝える朗読劇は貴重な記録です。公演がかなった折には、ぜひ多くの市民に鑑賞してもらいたいです。

コロナ禍での不自由を、経験とつながりで、なんとか乗り越えていく、ひたむきな姿に地域の底力を感じました。ますますお元気で!

ナガクル撮影(2020年12月26日、脳活カフェなでしこ)
柳原さんと「信州なでしこ隊」のみなさんに出会ってほしい
信州なでしこ隊
連絡先:メールアドレス rainbow-shinonoi@ivory.plala.or.jp(篠ノ井地区住民自治協議会経由)

取材・文章: 吉田 百助 (ナガクルソーシャルライター)
写真撮影・構成・編集: 寺澤 順子 (ナガクル編集デスク)
取材協力:篠ノ井地区住民自治協議会