「まだ」終わってない

復興へのアクション復興へのアクション
女性のコミュニティで地域を元気にー千曲川決壊で被災した津野区で
2021.01.20
女性のコミュニティで地域を元気にー千曲川決壊で被災した津野区で
津野復光隊 女子会リーダー
渡邉 美佐(わたなべ みさ)さん
2019年10月の令和元年東日本台風で区一帯が壊滅的な被害を受け、全74戸のほとんどすべての家が全壊した長野市長沼の津野区。ここで暮らし、農業を営む渡邉美佐さんら、地元の若手農家10人が農地再生のための団体「津野復光隊」を立ち上げ活動してきました。

しかし、それぞれの農地や自宅の復旧が進んでいくものの、様変わりした生活の中でストレスや孤独感を抱える住民たちの現状がありました。住む場所がばらばらになってしまった住民同士のつながりが薄れ、コミュニティ機能が弱まっている状況を何とかしたいと、地域を思う津野の女性たちの思いが集まり、渡邉さんをリーダーに2020年3月に津野復光隊の「女子会」がスタート。

津野公会堂に集まり、みんなでお茶を飲みながら、毎回様々なテーマで地域のことを話し合っています。女子会を訪ね、渡邉さんに地域への思いを聞きました。
津野の農地再生のために、地元の農家が力を合わせて復興隊を結成
渡邉美佐さんの自宅は千曲川の穂保地区の決壊場所から約200メートルの場所にあります。災害前夜から夫と義母と避難所へ。災害から2日後、地上にはまだ水の流れがありましたが、はやる気持ちで胴長靴を着て自宅を確認しに行きました。2つある大切な農作業小屋の1つは跡形もなく流され、母屋は残っていましたが壁が抜けるなどしていました。

自宅の片づけが進み、「1ヶ月ほどして、やっと農地に目が向けられるようになった」という渡邉さん。自身も農業を生業にしていたため、リンゴ、モモ、米、合計約1ヘクタールの農地は全滅。台風当日に収穫し終えたばかりの米は、冷蔵庫ごと流されていました。

「ショックなのはもちろんだったけど、落ち込んでいる暇はなかった。早く片づけたい気持ちで動いた」

※写真は津野復光隊Facebook(2020年1月6日投稿)より
津野の農地再生のために、地元の農家が力を合わせて復興隊を結成
ちょうどその頃、行政の支援を待てないほどの悲惨な農地被害の現状に対し、JA・県社会福祉協議会・NPOなど民間の組織が協働し、「信州農業再生復興ボランティアプロジェクト実行委員会(通称:農ボラ)」を立ち上ようという動きが起きました。

そのため、農地一帯が被害を受けた津野では、農ボラを受け入れ農地再生を進めるにあたり、じん速に作業場所を割り振るための現地コーディネーターが必要でした。そこで、他の農家とともに津野復光隊を組織し、コーディネート活動をスタートしました。

「地域の地形や、どこに誰の家、畑があるかとか、地域のことは地元の人でないとわからない。ボランティアのコーディネート、畑からの泥出し作業、市から委託を受けた業者との打合せなどをした」

土地の所有者にこまごまと連絡をとっていたら作業が進みません。ボランティア、地元住民、社協、農協が活動の拠点「津野ベース」に集まり、頭を突き合わせて、地図広げて農地を大きく区画に区切って効率を最重視して作業配分。被災当事者で、地域と信頼関係がある地元農家だからこそ進められた再生事業でした。

渡邉さんは最大で1日700人のボランティアを案内し、1日3万歩も歩いた日もあったといいます。11月から12月中旬に農業ボラの受け入れが終わるまでは、無我夢中の日々が続きました。
コミュニティの継続が課題になり、女子会を開催
年があけた2020年2月。市の委託業者が全部の畑に入り、農地再生のめどがついてきたころ。区の住民集会で「地区外のみなし仮説住宅などで暮らすため、散り散りになった人同士が、話す機会がなくなっている」という課題が上がりました。

津野復光隊での渡邉さんの活動を知っていた今の女子会メンバーから「コミュニティの継続のために集まりをしようよ」と提案が。津野復光隊の活動を通して、必要に応じて補助金を申請するなどの経験のあった渡邉さんを中心に、有志が集まり「津野復光隊の女子会」として、津野公会堂を会場にスタートしました。

30代前半~60代後半の主に農家の女性たち、毎回10人前後が集まります。二世代での参加も。自宅に戻っているのは渡邉さんのみで、ほかのメンバーは今も区外から通っています。3月までは毎週開いていましたが、新型コロナウイルスの影響を考えて月2回ほどに減らし、農業が忙しい秋以降は月1回ペースで集まってきました。

※写真は津野復光隊Facebook(2020年3月2日投稿)より
コミュニティの継続が課題になり、女子会を開催
津野の女性は誰でもいつでも参加できます。「今日は保育園のことについて話したい」というときは、若いお母さんたちや児童館の先生に来てもらったり、「おばあちゃんたちのことを話したい」というときは、年配の人や民生児童委員を呼んでみたり。課題によって津野に関わりのある人も呼んでいます。地域への要望について直接話したいときは区長の参加を呼びかけるときもあります。

メンバーには、長沼地区復興対策委員や長沼小学校のPTAなどがいて、ここで挙げられた意見が実際に生かされてきました。マスコミで多く取り上げられたこともあり、地域での知名度も上がり活動のしやすさを後押ししてくれているといいます。

公会堂の花壇の整備や側溝の掃除のほか、ボランティアの手を借りて1階の床張り、トイレやキッチンの整備も、女子会の提案で実現。公会堂の椅子の購入や扇風機購入などはONE NAGANO基金も活用。みんなが住みやすいまちづくりの下支えをしてきました。
地域をどうしたいか。女性の声を集めて生かす場に
長野市と国土交通省北陸地方整備局が長沼地区に建設を計画している防災拠点「河川防災ステーション」が、長沼にできるというのが本決定ではなかった2020年3月。

「防災ステーションが長沼にできるとしたらどういうものにしたい?」とみんなで意見を出し合うワークショップを行い、写真を切り貼りしてビジュアルで見やすく模造紙にまとめて、声を上げてきました。

もともと小さな地区で住民同士の仲が良く結束力がある津野区。参加者同士、仲が良いからこそ遠慮せずに発言し、自分、家族、住民全体のための活動を広げています。
地域をどうしたいか。女性の声を集めて生かす場に
80代のおばあちゃんと暮らすメンバーが多く、「おばあちゃんもさみしがっているから、一緒にやってあげよう」と昨年7月に始まったのが、おばあちゃんたちの会「ぺちゃくちゃ会」。

公会堂2階で女子会を開いている間、1階でおばあちゃんたちが体操したり、歌を歌ったりと交流します。女子会はスタートのきっかけづくりをしましたが、今は民生児童委員さんたちが自主的に手を挙げて、会の進行などを取り仕切っています。

「津野は、割と自立心があって前向きな人が多い。復興のためにたくさんボランティアさんが来て、地域のためにやってくれているのに、私たちがやらないなんてことはおかしい、私たちがやるべきと思っている人が多かった。でも、こんなに熱い人がいるとは思ってなかったから、驚いています」

みんなが同じように被害を受けていることで、絆はさらに強くなったといいます。
区の困りごとを地域内で解決するための仕組みづくりへ
もともと高齢化率の高かった長沼地区では、草刈りの問題などは災害前にもあり、いずれ深刻な事態に直面することが見えていました。災害によって人口が減り高齢化が加速したことで、課題解決が求められる速度も加速。

津野区でも住民はまだ1割くらいしか戻っておらず、この先どれくらいの人が戻って来るかもわかりません。

「今後、予想もつかないような課題が出てくると思う。除雪作業や手の回らない農家の手伝いに入ってもらうなど、活動をだんだん広げていき、人手不足で起きる課題を解決していかれればいいと思う」
区の困りごとを地域内で解決するための仕組みづくりへ

活動を広げる上でも、ボランティアなどの関係人口を増やしていきたいと考える渡邉さんですが、住民以外の人に頼りたくないと考える人もいます。異なる考えの人の意見をどう取り入れていくのか・・・自分の意見を押し通すだけでなく、どう柔軟性を持たせるかを考えながら、持ち前の実行力で自分がやりたいと思う活動を進めています。
なんでも言い合える仲間づくり。女性が自ら行動して住みやすい地域へ
2020年秋、栽培するリンゴの木が減ってしまったため、収穫量は以前より減りましたが、渡邉さんは通常通りリンゴを収穫し出荷することができました。

「被災直後は、翌年にリンゴなんかできっこないと思っていた。だから畑仕事がまたできるようになっただけでも夢のよう。本当に感謝の気持ちしかない。災害になって、いろいろな方と出会えたのも私にとって大きな財産」と安堵の表情を浮かべる渡邉さん。

壊れた自宅母屋を現在リフォーム中。これからもずっと津野に住み続けることを決めました。
なんでも言い合える仲間づくり。女性が自ら行動して住みやすい地域へ
一方で、みなし仮設住宅を出た後も津野に帰ってこないことを決めた人たちもいます。
「女子会においでよと言っても、『いや、もう私は…』と遠慮する人も結構いる。参加しないという人に対して強くは言えない。それでも『気心知れた人と話すのって大切じゃん、来てよ』と誘うと、涙ぐむ人も。やっぱりちょっと寂しいのかなとも思う」

人と話をすること、それがストレス発散になり心を温めてくれます。それぞれの場所で頑張る女性たちの姿を見ている渡邉さんは「この地区に関わってくれる人なら、誰でも女子会に来てもらっていい。どんな人でもウエルカムです!」と繰り返します。
住まいには戻らなくても、ここに生業があるから、農業をやっているから・・・と、津野を住みやすい地区にしたいとの思いで集まる女子会メンバーたち。自分の意見を言いたくても、普段なら気兼ねしてなかなか言えなかったことでも、緊急事態だから発言できたという面もあります。

「緊急時でなくても、みんなが思っていることを言える地域になればいい。女性の力、女性の意見って大きい。同じように女性たちの活動が長沼全体に波及していったらいいなと思う」

女性が立ち上がって意見を出し合い、行動することで住みやすいまちに・・・長沼全体がそうなるようにと願う渡邉さんの活動は続きます。
津野復光隊女子会
(長野市津野の公会堂が拠点)

Facebook (津野復興隊)
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取材・文章 : 松井 明子 (ナガクルソーシャルライター) 
構成・編集・写真撮影 : 寺澤 順子 (ナガクル編集デスク)