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避難所運営と児童の心を支えた豊野西小学校
2021.10.26
避難所運営と児童の心を支えた豊野西小学校
取材・文章:藤田、吉川(長野県立大学ボランティアサークルSkip )
豊野西小学校は、児童の学び舎として、また豊野地区の方々が快適に利用できる避難所として地域を支えてきました。前回同様に長野県立大学ボランティアサークル「Skip」が、“災害と地域の人々の乗り越え方”をテーマに豊野西小学校の宮下校長にお話を伺いました。
全ての人がひとつになって実現した避難所と学校の“共生”
長野市指定の緊急避難場所である豊野西小学校は、東日本台風が到来した10月12日の18時45分から避難所を開設し、300人以上の避難者の受け入れを行いました。避難所として施設や備品の提供し運営に関わりながら、同時に教育機関として児童の安否確認や通学路の安全確認など学校再開のための準備を進めていかなければいけませんでした。
「児童や避難者の方々のそれぞれが安心した生活を送れるように、学校を利用する全ての方と連携していくことが必要でした。そのため、学校と避難所の運営を行う長野市の担当者の方や災害支援の方々とそれぞれの状況確認をする会議が避難所開設当初から閉鎖するまでの2か月間で、ほぼ毎日おこなわれました。会議の中では、避難所運営者と学校の先生方が協力して行えることは協力しようという空気感があり、それが避難所と学校が“共生”した運営が出来たポイントでした」と宮下校長先生は語ります。
写真:医療従事者による衛生指導の様子
全ての人がひとつになって実現した避難所と学校の“共生”
学校再開にあたり、学校生活と避難所で生活する人々の暮らしが同時進行していくという点で、児童と避難所の双方への配慮をした対応が行うことが大切でした。例えば、避難所から自宅の片づけに向かう方々の移動と児童の通学が重なってしまうことが懸念されました。
そこで、避難所運営者には避難者の方々への呼びかけ、災害支援の方々には交通整理でご協力をいただくことで、児童の安全の確保すること出来ました。それ以外にも様々な場面で学校と避難所で協力して取り組むこともあります。生活する上で、学校としてグラウンドや体育館などの避難スペースを使わない学習を行う工夫する、避難所運営側では避難者の方にも児童が学校にいる時間帯には児童の学校生活を優先することをお願いするなどの配慮をしていただくようにご協力していただくことありました。また、学校として子ども達の感染症対策を行うにあたり、医療支援の方々に衛生指導をしていただきました。

「それぞれの立場で情報共有が十分にできていたからこそ、大きな問題がなく運営が出来たのではないでしょうか。それどころか児童と避難者の方々が元気に挨拶を交わす場面や、避難者の方々が感謝の気持ちを伝えてくれる場面が沢山あったんです。学校と避難所が”共生する”ことを大切にした私たちの想いと、『ありがとうと言ってもらえる運営をしたい。』という避難所の運営に当たった方々の想いが感謝してもらえる避難所運営に繋がったと思います。これは、私たちだけなく、当時の学校敷地内で活動していたすべての人が、困難の中でもお互いを尊重し合い、みんなで助け合おうという気持ちを持っていたからこそ、実現したことだと思います。」と宮下校長は当時の状況を振り返って話してくれました。
取材をしている際に印象に残ったのは「避難所の閉鎖を運営スタッフが説明をした際には避難者からのとても大きな拍手で体育館中が包まれた」というエピソードです。避難所閉鎖の決定は、必ずしも全員に喜ばしいことではありません。また、災害が起きる度に問題となる避難所の過ごしにくさや、避難所と小学校の運営が同じ敷地内で同時に行われることによって、ギスギスしてしまう場面ややりにくい場面もあったのではないかと考えていました。
しかし、実際はトラブルが起こる前に対処できるような協力関係が構築されてきたことや、この災害を地域全体で乗り越えようという想いが当時の小学校に溢れていたため、大きなトラブルもなく運営が出来ました。避難所運営で生まれた繋がりと、避難所が閉鎖された後も防災の拠点として地域全体をサポートしてくれるという信頼があったからこその感謝の拍手だったのだと取材を通して感じました。
「不安な気持ちなのは自然なこと。」子どもたちの心に寄り添った学校
「避難所の運営と同時に児童たちを少しでも安心させること、不安な気持ちを認めて災害と向き合うことができるように職員が児童の心の状態に寄り添う必要がありました。」と宮下校長先生は語ります。

災害の翌日である10月14日に電話で行なった児童の安否確認では、豊野西小学校では児童の4分の1が浸水等の影響を受けたことが分かりました。その際に、「教科書等が流されてしまった」、「実家では暮らせないため親戚の家にいる」、「救助のためのヘリコプターや緊急車両の音が怖い」、など子どもたちの様子は直接見えなくても、この非常事態にどれだけ不安を抱えているのか伝わってきました。そんな状況にある児童たちが少しでも安心できるように何が出来るかを職員全体で考え、豊野西小学校では2つのことを実行しました。
写真:被災当時の自由登校の様子
「不安な気持ちなのは自然なこと。」子どもたちの心に寄り添った学校
1つは職員が学年ごとに応援メッセージをメールで送ること、次に17日からの開始する自由登校は児童に寄り添えるような環境を整えることです。特に自由登校の期間中は、登校できる児童は誰でも来られるように、ランドセルや教材が必要ない登校期間としました。また、子どもたちのみで安全に登下校することができるような状況ではなかったため、保護者の方の送迎があることが条件でしたが、それでも24日には全校生徒350名のうち216名が登校しました。「それだけ、いつも学校で会う友達や先生方に会うということが、当時の子どもたちの不安を少しでも減らすために大切だったのだと思います。」と宮下校長先生と振り返ります。

また、10月28日の授業再開に当たり、臨時休校で授業ができなかった分のカリキュラムの変更、授業に使う場所の確保、通学路の安全管理、衛生管理など様々な課題がありました。特に心配だったのが被災した子どもたちの心の問題です。

自宅が浸水被害に遭った児童と浸水被害には遭わなかった児童が一緒に学校に通う中で、浸水被害に関する話題が出れば、誰も悪気はないのにお互いに傷つけあってしまうことなど、様々な場面での配慮が必要でした。そのため、スクールカウンセラーの方の助言を得ながら職員の中で児童のための話し合いを重ね、児童が安心できる環境作りをする必要がありました。
「児童との接しする時に、子どもたちと一緒にいること、一緒に遊ぶこと、話をしてくれたらちゃんと聞いてあげること、頑張ろうとは言わないことなどを特に大切にしました。それだけでなく、児童に少しでも変わった様子があれば、必ず他の先生方とも情報を共有するなど、児童が先生に直接相談しやすい雰囲気づくりを心掛けました。」
実際にその先生方の姿を見て、不安を打ち明けてくれる児童が何人もいました。
災害を悲劇に終わらせないための防災教育
避難所が閉鎖されて通常の学校生活に戻った現在は、今後の災害に備えて豊野西小学校では様々な対策を行っています。具体的には、学年に応じた防災教育の実施や、職員研修としてのAED研修や防災研修の実施、引渡訓練ではより実際の状況に近い訓練を行っています。
また、有志の方から子どもたちへ寄せられた支援金は、避難所になった際にも使えるようエアコンを特別教室などに設置、防災に関する図書の購入、防災教育の教材のための費用等にあてられ、今すぐ子どもたちに必要なものだけでなく、これから豊野西小学校で学ぶ子どもたちが災害に強く生きていくためにも役立てられています。

写真:先生方が防災に関する教材研究を行なっている様子
災害を悲劇に終わらせないための防災教育
さらに、今後の防災教育について様々な計画が始まっています。豊野地区では、豊野地区住民自治協議会が中心となって家庭向けの防災ガイドブックの冊子を作成して配布したり、防災ガイドブックや防災マップのアプリを開発するなど、子どもたちが災害の多い日本で生き抜く力をつけるための取り組みが行われています。
豊野西小学校でも、防災ガイドブックや防災マップを使った授業を通し、災害に備えることや減災について学べる環境作りを行っています。さらに、昨年からは豊野地区の3つの小学校合同で防災教育や防災管理などの研究や情報共有を行い、今後もより良い防災教育のために継続的に協力していくことになっています。地域で連携しながら防災教育を行うことにより、児童生徒の安全を守るだけでなく、災害により強い地域づくりにも繋がっていくと感じました。
今回の取材を通して一番心に残ったことは、人の温かさと繋がりの強さです。災害が起きた時、みんなが大変なときに助け合えることは、本当にすごいことであると感じました。避難時にはいつも通りの生活ができない上に、一人一人が次々と起こる課題に向き合うこととなり、自分のことで精一杯になってしまうこともあると思います。そんな状況でも立場などの枠を超えて“共生”し、みんなで乗り越えた経験が、災害を悲劇で終わらせず、これからの地域や地域を担う子供たちの糧になっていくのだと感じました。
長野県立大学ボランティアサークル「skip」
台風19号災害後、豊野地区でわかめうどんの炊き出しを行った際の様子。Skipを卒業したOB・OGメンバーも駆けつけ、ボランティア活動を行った。
Skip Instagram(https://www.instagram.com/skipskipskip311/?hl=ja)