「まだ」終わってない

復興へのアクション復興へのアクション
“モノづくりで行う復興”と“災害と向き合う文化”を根付かせる文化施設
2022.01.04
“モノづくりで行う復興”と“災害と向き合う文化”を根付かせる文化施設
取材・文章:藤井、米窪(長野県立大学ボランティアサークルSkip )
長野県立大学ボランティアサークル「skip」が、千曲市のアートまちかどの学芸員である布谷理恵さんを取材しました。アートまちかどは、2019年10月に発生した東日本台風災害を受けて、チャリティーの展覧会や陶芸ワークショップで復興に貢献している施設です。市内外の多くの方々に美術を親しんでいただくための文化施設がどのように復興に関わっていくかをテーマにお話を伺いました
「陶芸で何か力になれることはできないか」というみんなの想いを形にした焼物展。
 千曲市では、東日本台風災害で1600戸以上が浸水するなどの甚大な被害がありました。アートまちかどの建物は無事でしたが、近隣では、多くの住宅や施設等で被害が発生し、その中のひとつに、千曲市の中心的な文化施設である更埴文化会館(あんずホール)がありました。
「予定されていた小中学校の音楽会や地域の方々の発表会などは次々と中止され…。発表会のために1年間練習をしていた方々にとっては発表の場が失われたことによる精神的なダメージがあったり、それを楽しみにしていた方々も悲しい気持ちになる人が多かったです。地域間での交流の場は減り、地域全体が暗いムードになっていました。」
 そんな中、転機になったのは2020年に開催した「第5回北信焼物展」。2020年3月に開催された陶芸展です。その中でひときわ目を引いたのは、「災害」をテーマとした作品でした。
「陶芸家の中には工房が被災した方だけでなく、陶材を仕入れる馴染みの店舗が浸水してしまい、ボランティアとしてこの陶芸展に参加された方もいました。『東日本台風災害の支援をしたいけれど、具体的に何をしたら良いのか分からない。それでも何かを作って貢献したい』という彼らの想いを形にした作品が展示され、それを見た他の陶芸家からも『自分も陶芸で何か貢献したいと思っていた』という声が上がりました。
『次の第6回北信焼物展は、 “復興”をテーマに掲げ、北信焼物展が被災者を支援するのはどうだろうか。』ある陶芸家の一言に、その場にいた出品作家達が深く頷きました。
その様子を見て、私自身も陶芸家達とともに“復興支援に加わりたい”という想いが生まれ、従来の陶芸作品を展示するだけの展覧会の枠を超えた“活動する展覧会=復興焼物展”の開催を決意しました。」
 しかし、当時はコロナ禍ということもあり多くのイベントが中止されている厳しい状況でした。
「陶芸家の中には、“芸術は不要不急だ。自粛するべき。”という声が少なからずあったのも事実です。しかし、復興支援は“今やるべき”と考え、実行委員会で話し合いを重ねながら各出品作家に、それぞれのご意見を伺い、復興に沿った作品出展やチャリティーイベント、被災した子ども達への体験講座のプレゼント等、なんらかの形で関わって頂けないかお願いして周りました。」
その結果、2021年3月に“行動する焼物展”をスローガンに掲げた「第6回北信焼物展 復興焼物展」の開催まで漕ぎ着けることができました。その展示では作家達が復興の想いを込めて表現した陶芸作品や、子ども達が出品作家の指導のもとワークショップで制作した力作を展示する等、地域の人を巻き込んだ取り組みを実施しました。
モノを作ることでできる復興
従来の展示だけでなく、ワークショップなどを行う第6回北信焼物展 復興焼物展の開催を検討していた時期は、東日本台風災害から4ヶ月後ということもあり、千曲川沿いの地域でもボランティアなど直接的な支援や、資金などの喫緊の支援が盛んに行われていました。そのおかげでハード面での復興が進んできている状況でした。
「そんな時だからこそ、被災者のメンタルケアや次の世代に『災害について伝えていくこと』が今は求められているのではないか?と思いました。確かに、災害時に芸術は『直接的な支援は出来ない』として、後回しにされがちです。しかし、被災者が前を向くきっかけとして、モノづくりは直接的な支援とは角度が異なっていても、精神面での復興に寄与することができるのです。」
モノを作ることでできる復興
「それを実感したのは、開催したのが家のモノが流されてしまい悲しんでいる子ども達に向けて行った陶芸ワークショップです。作家の指導のもとに陶芸作品を制作し、北信焼物展会場で作家とともに作品を展示するというものでした。モノを失った悲しみをそのままにするのではなく、つくって再生する。そして新しくつくり出したものを、普段から使い続けることで、前向きな気持ちで災害を覚えていて欲しいという思いを込めて実施しました。」
被災した長野陶材さんを会場として開催したワークショップに参加した小学生は50人にものぼりました。そのほとんどが浸水被害に遭ってしまった住宅の子ども達です。

「大切なモノをなくすということは、子どもにとって非常にショックな出来事。立ち直るには相当のパワーが必要だったと思います。そんな子どもたちが本気で楽しんでいたのが印象的で、今でも思い出します。中には『将来陶芸家になりたい!』と言ってくれた子も。モノづくりを通して希望や夢を持ってもらうことができました。モノづくりで出来る復興がある、と実感できた瞬間だったんです。」
また、子どもたちが作った作品は、地域全体にもポジティブな影響を与えてくれました。「ワークショップの時に作成した作品を鑑賞された方から、『子どもたちが頑張っているから自分も頑張らないと』といったような前向きな意見が多く聞かれたり、復興支援のために設置した募金箱にご協力いただく方が増えたり。地域全体で復興への意識を高める“きっかけ”を作ることに貢献できたと思っています。」
まちに災害と向き合う文化を根付かせるために
「大きな災害が起こった時は、建物や畑、設備の被害状況やそれに伴う金銭的な損失などがどうしても注目されがちです。しかし、被災者の方々が心の傷を負ってしまったことや、イベントなどの機会が失われたことによる交流や活気の喪失も大きな被害ではないでしょうか? こうした被害を復興するということは、文化の底力が試されることだと思います。」

「人の営みから築き上げた街並みや、被災された方々の気持ちを復興するということは、まち全体で新しいまちを作り直すようなものです。だからこそ、前よりも災害に強いまちをみんなで作っていくことが求められています。私たちは災害を経験したことで、その痛みや大変さが分かりました。その経験を活かして、ひとりひとりの防災・減災の意識が変わって広がっていけば、まちに災害と向き合う文化が根付いていきます。私たちは、そのお手伝いをしていきたい。」
まちに災害と向き合う文化を根付かせるために
「アートまちかどでは、これからも防災・減災となる取組など、災害に強いまちづくりの情報発信やアクションを起こすきっかけの1つとなる場所を提供することで、復興に貢献していきたいです。今回の展示会のように災害を経験した人々が前を向いていく力強いパワーを、発表の場やモノ作りで様々なことを考える機会を提供することで応援していきたいと思います。また、作家の想いを沢山の人に広めていくことで、地域の文化施設が復興を行う意義に繋がります。他の文化施設に比べて小さいと、持てるものに限りがあります。けれどその分、その土地ならではの視点で、狭く深く地域と関わっていけるのがアートまちかどの強み。これからも地域の文化を作っていく人を応援して復興に貢献していきます。」
取材を行う前までは、直接現地に赴いてボランティアに参加することが復興支援だと考えていました。しかし、今回の取材を通して、現地での活動以外でも自身の得意としている分野で復興支援をすることができるのだと感じました。
何よりも大切なことは、「復興のためにできることをしよう」という強い気持ち。そのことを、布谷さんから教えて頂けたと思います。
長野県立大学ボランティアサークル「skip」
台風19号災害後、豊野地区でわかめうどんの炊き出しを行った際の様子。Skipを卒業したOB・OGメンバーも駆けつけ、ボランティア活動を行った。
Skip Instagram(https://www.instagram.com/skipskipskip311/?hl=ja)